水牛家族って? どんなところ? マンゴー・プロジェクト レイテ・グッズ オルモック物語 スタディ・ツアー 水牛家族通信 入会の方法



No.10 ティム君一家の暮らしが始まりました
No.11 トンナゴンの空は泣いていた
No.12 いよいよ土地探しも終盤に
No.13 わぁッ、びっくり!不発弾!?
No.14 小農家組合のリーダー、ヴェロニカさん
No.15 マニラに地主のタンさんを訪ねたけれど……
No.16 急転直下土1地がわたしたちのものに!
No.17 大きい夢に向って、小さい歩がはじまります
No.18 地すべりの村、希望と絶望が背中合わせ
No.19 <地域デビュー>をはたしました
No.20 軍の広報官とご対面
No.21 キャンプ・ドーンの司令部を訪ねる
No.22 フィリピン中で深刻な米不足
No.24 レイテ戦の記憶を無駄にしないために
No.25 ミセス・ティストンのお宅にホームステイ
No.26 ODAで得をするのはだれ?
No.27 ーご近所さんをクリスマス・パーティにー
No.28 破壊が進んだ環境の再生をめざして
No.29 子どもはみんなアーティスト
No.30 抗日ゲリラの歴史・アミハン君の戦争−その1
No.31 抗日ゲリラの歴史・アミハン君の戦争ーその2
No.32 抗日ゲリラの歴史・アミハン君の戦争ーその3


ODAで得をするのはだれ?

●住民の知らないところで決まる「援助」の中身


水牛家族の農園から背稜山脈を望むと、遠くにトンゴナン地熱発電所の白い蒸気が立ちのぼっているのが見える

 レイテ島中央部の小さな集落トンゴナンに地熱発電所建設の計画が持ち上がったのは、1980年代のはじめ、マルコス独裁時代のことです。
 これは単独のプロジェクトとして計画されたのではなく、日本とフィリピン両政府の合意のもとに、巨大な銅精錬所をレイテ島に作ろうというプロジェクトの一環として計画されました。

 フィリピンは銅の埋蔵量が多く、原料の調達には事欠きません。もしフィリピン国内に自前の銅製錬所が持てれば自国の工業生産に寄与するだけでなく、輸出増大にもつながります。また、日本の企業にとっても、日本国内で公害企業として批判を受けながら精錬所を稼働させるよりも、お隣のフィリピンで精錬された銅を輸入する方が有利です。こうして日本とフィリピンの利害が一致したところで、プロジェクトがスタートしました。もちろん、この段階で、トンゴナンに地熱発電所ができることは住民には一切知らされていません。この時の日本側トップは中曽根首相で、新聞には「マルコス=中曽根、日本・フィリピン蜜月時代」と報じられました。

 銅精錬所の建設資金は、日本の多国籍企業である丸紅、住友商事、伊藤忠商事が32パーセントを出資、残りの68パーセントをフィリピン国家開発公社と鉱業関連の企業11社が共同で出資し、パサール(The Phillippine Associated Smelting and Refining Corporation)銅精錬所がレイテ島西海岸の町イサベルに建設されることになりました。3社は資金を出した見返りに、生産された銅の販売権の76パーセントを独占的に獲得します。つまり、日本の多国籍企業の下請けをパサールが引き受けたといってもいい内容の契約です。

 また、パサールを稼働させるのに必要なインフラ(基盤)整備には、日本政府が巨額のODAをつぎ込むことになりました。いくら立派な銅製錬所ができても、港湾、道路、発電所などが整備されていないと精錬所は順調に稼働しません。そのため日本政府は、港湾の建設に76億円、原料や資材を運び込む道路の整備に65億円、そして動力となる地熱発電所の建設に188億円(註:3年後に164億円を追加)を出資しました。こうしてパサール建設予定地のイサベルから約20キロ離れた山合いの集落・トンゴナンに、日本企業の技術を駆使して地熱発電所が建設されることになりました。

●環境への配慮より企業の利益優先
 フィリピンは日本と同じ環太平洋火山帯に属し、地熱発電に適しているといわれています。ただ、日本とフィリピンでは、エネルギー事情がかなり違っています。


洋上からパサールを望むと銅精錬後の廃棄物が海岸近くに山積みされている。海水の汚染がすすみ、
イサベル湾に魚介類は見られなくなった。漁師たちは仕事を失い、次々と都会へ出て行く

 日本では、地下の熱水や水蒸気の噴出個所を探り当てるのに多額の経費がかかることもあって、地熱発電は盛んではありません。かわりに石炭や石油をてっとり早く海外から輸入し、大量に消費してきました。最近になって、温暖化の問題や二酸化炭素排出量の問題がきびしく問われるようになり、自然エネルギーへの転換が言われる中で、地熱エネルギーにも目が注がれるようになりました。

 一方、フィリピンでは、日本政府のODAによる資金協力によって地熱発電への道が開かれ、今ではアメリカに次いで世界第二の地熱発電国になっています。といっても、フィリピンの人たちの暮らしに電気が行き渡っているわけではありません。農村の貧困地帯や都会のスラムでは、今も電気なしで暮らしているひとはおおぜいいます。フィリピンの場合、発電所は一般の人びとのために作られるのではなく、電力を大量に消費する外国企業や外国企業に追いつきたい国内の大手企業、それにホテル、娯楽施設、高級マンションなど、限られた顧客を優先して建設されているのです。このため、環境への影響や人びとの暮らしへの配慮などは二の次で、民生向けの配電システムはまだまだ不十分。それどころか、エネルギー開発のために地域住民が強制移住させられたり、発電所が排出する廃棄物や環境汚染によって、どれだけ甚大な被害をこうむってきたかわかりません。トンゴナン地熱発電所も例外ではなく、想像以上に環境汚染が進んでいることは前回お話した通りです。

●黒い斑点バナナにショック
 それにしても、トンゴナン地熱発電所による汚染は地域の人びとにどんな影響を与えているのでしょうか。 
 そういえば、以前、トンゴナンの隣村ミラグロの紙作りグループの女性たちが、しきりに、近頃目が悪くなってきたとこぼしていたのを思い出しました。よく見ると、彼女たちの目には白内障のような曇りがあります。まだ30代か40代なのにおかしいなと思い、ホウ酸水でよく洗うように伝えました。次に会った時に様子を尋ねると、ホウ酸水で洗っただけではいっこうによくならないとのことでした。

 また、今年に入り、水牛家族の農園の管理人をしているティム君の息子のティージー君が体調が悪いと聞いていたので、農園に着くと、すぐに様子を尋ねました。すると、ティム君が言うには、「曇った日が数日続くと、トンゴナンの汚れた空気がリボンガオにも流れてくる。すると決まって子どもの様子がおかしくなる」と言うのです。そういえば、ティム君のお連れ合いのジーンさんも、ミラグロの女性たちと同じように目に曇りがありますが、ジーンさんの場合、薪で炊事をしているのでそのせいだろうと言っています。ティム君一家はリボンガオの農園にくる前は、カナンガの町からトンゴナンに通じる入り口の集落に住んでいました。テージー君の体調がすぐれないのはトンゴナンの大気汚染と関係があるのでしょうか。

 滞在中、カナンガの市場で買ったバナナを食べようとすると、写真のように黒い斑点が見つかりました。うかつには言えませんが、もしかしたら、トンゴナンの大気汚染は、かなり広範囲に広がっているのかもしれません。一度、近隣の人たちの健康調査をする必要がありそうです。(つづく)







 




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